劇場版遊戯王の感想 3



劇場版『遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』感想の続きです。

(これまでの感想 12



パンフレット読んでの追加の感想です。






強くなった遊戯



これには特に違和感もなく、イメージ通りでした。

戦いの儀の時点ですでに、もう一人の僕との別れを決意出来た程、彼は強かった。



高橋先生は「迷いを克服しようとしている」とおっしゃってましたが。

受け入れるべき現実、進むべき未来が、遊戯にはちゃんと分かってる。

ただ、少し別離の悲しみを引きずっていて、その痛みを内に秘めてるような・・・。

そんな印象です。



「無理に忘れる必要はない」と、遊戯の隠しているその気持ちを察して、こう言ってくれた城之内は、

本当に優しいな・・・と。



桑原監督も、遊戯の強さをよく分かってくれていて。

思えば、監督が出かけたZEXALの結末も、やっぱり原作リスペクトだったな、と思いました。




城之内のAGO



加々美さんがツイッターで、デュエルモンスターズ(DM)制作当時、AGO城之内に関するエピソードを

以前語ってくださっていました。

遊び心のある方で、今回のシリアスな内容の劇場版でも、

まさかAGO城之内が観れるとは思ってなかったので、

嬉しかったです。



それも、変なシーンに無理矢理入れるのでは無く、

イキイキと城之内らしさが表れるシーンで使ってもらえたのが、とても良かった!

パンフにある通り、感動的な生還シーンで使われなくて、良かったです。(笑)




目指す未来



パンフの杏子の所の、監督のコメント。

屋上で仲間達と語った、それぞれの夢、信じる未来。

それとは対称的な、藍神達プラナの目指す場所。

シャーディーの教えに従う藍神を、

「教えに囚われている」と表現している所、とても納得しました。



巣立っていく事、卒業の意味、未来への不安、別れへの悲しみ・・・。

遊戯王GXの4期に、そうしたテーマが描かれていましたが、

きっと遊戯達も、そうした感情を持っていたハズだし、

こうした経験は誰にでもあるはずで。



けれど、遊戯達はちゃんと現実と向かい合って、前に進もうとしています。

その成長ぶりが、とても清々しくて、眩しい。

一方で、プラナ達は、高次元を目指してしまう。

それは、過酷で辛い現実から逃げているようにも見えます。



「仲間に依存しすぎない」遊戯や城之内達の強さ、逞しさ。

自立していく少年少女達の物語なんだと、強く感じました。




海馬



高橋先生のコメント欄のタイトル、「アテムに囚われたカリスマ」というのが、

一番端的に表現出来てると思う。



その執着を描くにあたって、違和感が無いよう、海馬らしさの表現に細かく気配りがされていたんだな、と。

原作にあった表現(鼻の穴やタッチの入り)を取り入れているのは、面白いと思いました。

映画を観ていて、「ああ、こういう海馬の表情、原作で見た気がする」と思ったのは、

これのせいだったんだ。




KCステーションと軌道エレベーター



これ、KCの宇宙事業の一環で建設されて、

それを海馬が自分の野望のために一時的に利用したんだと思ってました・・・。



パンフを見る限り、これ自体が「千年アイテムを(効率良く)組み立てる為」

に作られたらしく。

・・・それだけの為に!?(笑)

損得は一切無視して!自分の野望の為だけに!



そういえば、原作でも遊戯との決着の為にバトルシティを開催し、

デュエルタワーを建設しちゃう方でした。

そういう所、原作と変わらずの海馬らしさだと思います。




藍神(ディーヴァ)



消される間際、「助けて!セラ!シャーディー様!!」と叫んだのが印象的です。



高次の世界を目指す、などと高尚な事を言いながら、

今際の際には妹に助けを求める。

その叫びは、幼い子供の様で。

この矛盾。

根は優しく純粋で、シャーディーの教えを盲信する余り、

自分の弱さも、本当に心が求めているものも、進むべき未来も、見えていなかったのかな・・・と思えます。



最期に彼が縋りたかったのは、血の繋がった妹。

妹のセラを心のよりどころにしていた事が分かります。

本来の彼は、妹思いで、家族や仲間を大事にする、心優しい普通の少年だったんですよね。

獏良の心からの謝罪に動揺してしまう程に。

とても普通で、とても優しい。



設定、ちょっと複雑で分かりづらかった所が、簡潔にパンフレットに書かれてました。

「選ばれた子供たちの集合意識で構成されたプラナの力を操り−」

「崇高な目的のために邁進する一方で、悲惨な過去を忘れられず、その心に闇を抱えている・・・」

高橋先生のコメントによれば、

「自分と同じ領域に属する集合意識の力で攻撃する」



藍神が八つ目の千年アイテムを使って起こす不思議な現象は、

一言に言うと「集合意識の力」なんですね。



桑原監督のコメントにあるように、藍神は遊戯達の平和で穏やかな日常が、

内心羨ましかったんじゃないかな、と私も思いました。

遊戯や獏良に向ける冷たい眼差しの中には、そういう嫉みの感情もあったんじゃないかと。



それと、高橋先生のコメントにある「人間社会の縮図」と言うのは・・・。

もしかしたら、宗教を理由に引き起こされるテロや戦争の事を言ってるのかな・・・?と、

少し考えました。

一つの教えに拘り、囚われ、暴走する様は、宗教の抱える問題に似ているな、と。




セラ



イシズが妹だったら、こんな感じだろうな、と思います。

使命を背負い、兄(弟)を思い、ミステリアスで、でも芯の強い女の子。



パンフの監督のコメントによれば、「プラナの中でも異質な存在」だと。

他のプラナの子供達はディーヴァに同調してしまうけど、セラはディーヴァの復讐心には同調しなかった。

そこが異質なのかな?



兄の悲しみをよく分かっていて、同じ痛みを背負いながらも、復讐に囚われてはいけないと言える、強い子です。



多分、人の心を見通すような巫女的な能力もあるのかな?

ファラオの器である遊戯の事を、面識もないのに信じていました。パズルのピースを渡す程に・・・。

彼が正しく選択してくれると。そして兄を救ってくれるかもしれないと。



パンフ読んで気付いたのですが、遊戯がシャーディーによって選ばれた同胞の一人だから、

というのが遊戯を信じた理由なんですね。



読み切りでは、声を聞いたといい、海馬にも忠告を与えています。

冥界の声を聞くことができる能力も有し、

もしかしたら、この結末を、海馬の行く末も見通していたのかもしれません。



衣装的にも、物語でのその役割も神秘的なキャラで、そういう所もイシズに似てるかな。

でも、兄を思う所は、普通の妹なんですよね。

ディーヴァを「兄さん」と呼ぶシーンは、彼女の妹としての素の感情が見えて好きです。




SNSのメタファー



高橋先生のコメントを読むまで、これに気付きませんでした。

藍神達が束ねる集合意識の力、というのは、なるほど、SNSによく似ている。

その存在を認め、認識させるのも、或いは忘れ去られ、存在が消されてしまうのも。



先生は、ネットワーク社会の持つ闇の部分の方に危機意識を持っていて、

それをこの物語で表現しようとしていたのか・・・。

そこまで考えられていたとは。

なかなか難しいテーマですよね。




マルチバース理論



この理論はよく知らないのですが、予想通り、冒頭のあのシーンは多次元宇宙の象徴だったようです。



でも「宇宙は決して一枚のカードから始まったわけではない」というメッセージに、驚きました。

「宇宙は一枚のカードから始まった」というのは遊戯王GXの設定で、

同じような言葉が遊戯王ZEXALにも登場しています。



つまり、この原作設定の映画の世界は、

続くアニメシリーズの世界、DM、GX、5D's、ZEXAL、そして現在のARC-Vとも、

繋がってはいない、という事かな。



多次元宇宙なのだ、という事なら、

あの数多ある宇宙の中には、逆に「一枚のカードから始まった」宇宙もあって。

平行して存在するそれぞれの宇宙の中で、

DM、GX、5D's、ZEXAL、ARC-Vの世界がある、のかなと思いました。



現在放送中のARC-Vに先代シリーズのGX、5D's、ZEXALからそれぞれゲストキャラが出演していますが、

これもそれぞれ本編のキャラ設定とは違っていて。

同じ外見、性格のキャラだけど、違う世界で生きてきたキャラ、というような感じになって登場しています。

これも多次元宇宙設定で考えると、辻褄が合うようで、面白いです。





その他、千年アイテムやシャーディーに関する高橋先生の解説がパンフレットにあります。

これ、映画を理解する上で、かなり重要です。




日常と非日常の対比



桑原監督のコメントに、納得しました。

映画を観た時に感じたのが、正しくこれで。

藍神達の生きてきた世界の非日常と、遊戯達のありふれた穏やかな日常と。

日常シーンの遊戯達の台詞、仕草がとてもイキイキしていて。

そこはスタッフが工夫を凝らして大事に描いたシーンだったんですね。




風間俊介さんと津田健次郎さんの対談



高橋先生も楽しみながらこの映画を作ってくれたんだな・・・。

それと、最後のコメントを見るに、遊戯王はこの映画で終わり、ではないと感じさせてくれます。

この映画や20周年の盛り上がり次第で、何が次に繋がったら嬉しいな。



他にも、DM声優陣の対談で、DM当時の収録エピソードが語られていて、興味深かったです。






ちょっと小ネタ



パンフレットとは関係無い話なのですが。

KCの軌道エレベーターについて。



映画が公開される4月23日の前、4月1日のエイプリルフールに、

集英社の公式サイトのエイプリルフール企画で、

「海馬コーポレーションが集英社と合併 完全子会社化を予定」

を掲載した際、KCについて

「近年は宇宙開発事業にも参入し、世界で唯一の軌道エレベーター保有中。年商は約9180億円となっている。」

という文章があったんですね。



こんな所まで劇場版の伏線を仕込んでいたとは驚きです!