遊戯王ZEXAL II  第138話

第138話「混沌(カオス)たる存在(もの)『ドン・サウザンド』光来!!」



デュエルで敗北したベクターに、ナッシュは言う。



 あの時と同じだ、ベクター



 かつて、この場所で対決した時も、貴様はデュエルで負け。

 そして、お前が殺め、恨みと憎しみを持ってこの世を彷徨う亡者達と共に・・・。

 地獄へ落ちた。



ナッシュが言っているのは、生前での二度目のベクターとの対決の事か。

この時もやはり、海底遺跡の時と同様に、石版でデュエルした様です。

前世、現世を通して、ナッシュとベクターは三度デュエルし、ベクターはその全てに敗北した事になります。



136話の冒頭で、亡者に襲われる悪夢にベクターがうなされていたのは、そのせいだったのか。

呪われし王宮の伝説では、皇子は最後に自害した事になっていましたが。

実際は亡者達に取り憑かれ、殺された様子。



前世と同じように、ベクターの周囲に亡者が現れるが、

ベクターは取り込んだ七皇の力を使い、これをはね除ける。

さらに、ナッシュ達を道連れにしようと企む。

崩壊を始める王宮の遺跡。



これが神となった俺の力だ!と暴走するベクター

そこに、ベクターによって焼き尽くされたはずのドン・サウザンドが、再び姿を現す。



ドン・サウザンドは消えてはいなかった。

全ては、この機がやってくるのを持っていたのだ。

ベクターの力を全てをもらうといい、ベクターを吸い込もうとする。



この機を待っていた、と言うのは、ベクターが敗北し、用済みとなるタイミングを言っているのか?

七皇の力を次々と吸収したベクターが、敗北して弱体化する時期を、狙っていた?

ベクターの力で焼き尽くされたように見せかけたのも、ベクターを騙す為の演技?



利害関係の一致で協力していたドン・サウザンドとベクター

互いに相手を利用している様に思えましたが。

ドン・サウザンドの方が一枚上手だった様です。

ベクターの性格を考えれば当然、いずれ自分を裏切る事も、ドン・サウザンドにとっては想定済みだったのか。



強力なドン・サウザンドの吸引に、ナッシュや遊馬達も危険にさらされる中。

俺はこんな所で死にたくねえ!と必死に足掻くベクター

すんでのところで、ベクターの手を取り、救ったのは、遊馬だった。



遊馬を止めようとするナッシュ。



 ナッシュ「やめろ遊馬!そいつに心はない!

      助けても、また裏切るだけだ!」

 

 遊馬「だったら・・・だったら、もう一回、信じる!

    心が無いなら、心が出来るまで、俺は信じる!

    それが俺の、かっとビングだ!」



   「ベクター、お前にだっていい心はある。

    お前が真月だった時だ!

    いつも陽気で、いらないお節介して。

    俺もみんなも、お前が大好きだった。

    仲間だったんだ!

    お前の本当の姿は、真月零なんだ!」



   「そうだ、お前は真月だ!

    だから俺とやり直そう、真月。」



前回もあれだけベクターに騙されたのに、まだ遊馬はベクターを信じている。

ベクターの本性は真月零だと。

前回も書いた通り、真月の性格や行動は、全て遊馬の気を引くよう計算されたものだと思います。

そんな真月を、どうしてそこまで信じるのか??

それとも、真月との友情も絆も、偽物なんかじゃなかったと、信じたいだけなのか?

「俺もみんなも、お前が大好きだった」という言葉からも、そう推察されます。



遊馬の言葉に、一瞬、ほだされたかのように見えたベクターだが。

次の瞬間、またも表情が豹変する。



 なら。俺の道連れになってくれよ!

 俺と一緒に逝ってくれよ、遊馬!



遊馬の掴む手を両手で握り、遊馬を自分諸共ドン・サウザンドの中に引き込もうとするベクター

ベクターが狂気に満ちた笑い声を上げる。



 さあ、こっちへ来いよぉ!!



その時。



 遊馬「ああ、いいぜ、真月。

    お前を一人になんてしない。

    お前は俺が、守ってやる。」



覚悟を決めた遊馬の、ベクターを見つめる、真っ直ぐな眼差し。その目には涙が。



自分を犠牲にしようとする遊馬の行動を見て、アストラルも小鳥もナッシュも、辛かったはず。

それでも、遊馬のそうした性格を知っているから、彼らには遊馬を止められないだろうな・・・。



遊馬の涙が、ベクターの頬に触れ、砕け散る。

この描写も、良かったです・・・。

何かが吹っ切れたような、あのベクターの表情・・・。



ベクターは、掴んでいた片手を離す。



 とんだお人好しだ。バカバカしい。

 君なんて道連れにできないよ。



 さよならだ・・・・。



遊馬の手を離し、ドン・サウザンドに吸い込まれて行くベクター



今までの、改心したと見せかける時とは違う、このベクターの表情と台詞。

わざとらしく、巧みな言葉を使う事もしない。

ただ一言、「バカバカしい」とだけ。

真月だった頃の、自分に向けられた遊馬の言葉が、フラッシュバックして、

遊馬に対する感情が、一気に溢れてきたはずなのに。



この僅かな時間、ベクターが本心を語る時は、

こんなにもあっさりとしていて、言葉少ない。

これが、本当のベクター、なのかもしれません。



ベクターの死。

もうベクターは改心する事なく、ゲスのまま死ぬんだろうな、と思ってました。

視聴者の間でも、ベクターには改心しないで欲しい、という意見もありましたが。



ベクターを助けようとした遊馬の行動に、一度は感動した素振りを見せて。

もしも、これで改心するなら、トロンやフェイカーの時と同じです。

しかし、この場に及んでも、遊馬を道連れにしようとするベクターのゲスさは、変わりませんでした。



それに対して、遊馬はどうするのか・・・?

結局、ベクターは心を取り戻す事なんて無かったじゃないか。

それなのに・・・・。



一緒に死んでやるよと言った遊馬。

ゲスで救いようのない奴でさえも、助けようとする。

無限とも思える優しさと、全てと包み込むような、壮大な人間愛。



前回、ベクターを弁護した遊馬の、あまりにも常識外れな優しさを異常に感じましたが。

今回見せた、他者に対する優しさ、思いやりも、やはり常人離れしています。

その優しさはまるで、神のようでもある。

もしかしたら遊馬は、人間ではないのかもしれない、とさえ思えました。

121話で一馬が「遊馬が、俺達を選んでくれた」と言った台詞を思い出します。



どうにも救えない相手を前に、自分を差し出す、その行動に、

GX3期の最後で、ユベルと融合した十代を思い出しました。

十代の場合は、前世の絆を思い出したからこそ、嫉妬に狂うユベルとの融合を選んだ訳ですが。

遊馬は、自分を繰り返し騙し続けた相手と心中しようとした・・・。



そしてここまで来て、最後の最後に、ベクターにも遂に変化があらわれる。

非情で残酷で、人を信じないベクターだからこそ、

そのベクターが変わるには、これほどまでに深い遊馬の優しさが必要だったのだと思えました。



ベクターの最後の台詞が「遊馬君」。

もしかしたら、遊馬の言う通り、真月が本当のベクターだったのか?

それとも、真月を信じたかった遊馬の気持ちに、ベクターが応えたのか?

遊馬に好かれるよう計算しながら真月を演じていたベクターにも、

知らず知らずのうちに、心が芽生えていた、のかもしれません。



ベクターはゲスなキャラではありますが、

人の不幸を見て楽しむ姿も、相手を馬鹿にして煽る所も、どこか無邪気で、子供っぽく、何となく憎めない所がある。

怯えたり、恐れたりもする程度には、まだ人間らしい感情がある。

達観していて何事にも動じず、恐怖も感じない歴代の悪役達とは、その辺りが違っているかな。

今までに無いタイプの悪役だと思いました。



ベクターを救えなかった遊馬は、ドン・サウザンドへの怒りをあらわにする。

力を取り戻したドン・サウザンドによって、バリアン世界が変貌する。

「我は既に、一つの世界となった。」というドン・サウザンド。

ドン・サウザンドの力で、地上世界とバリアン世界は融合してしまった。



その時、遊馬達の前に現れたのは、月から戻ったミザエル。

ミザエルは、カイトの形見、ヌメロン・ドラゴンを遊馬に渡しす。



 ミザエル「カイトが託し、信じた未来。それが、お前だった。」



     「ドン・サウザンドの作る未来に、我々の願う未来はない。」



よく見ておくのだ、私のデュエルを!と言い、一人でドン・サウザンドに立ち向かうミザエル。

ドン・サウザンドは黄金に輝き、その姿を変える。

これがドン・サウザンドの、本当の姿。

神の力を取り戻したドン・サウザンドを相手に、バリアンの力を失ったミザエルが、デュエルを挑む。



ミザエルがバリアンの力を失ったのは、

時空竜がヌメロン・ドラゴンのカードに吸収されてしまい、

オーバーハンドレットを実質失っているから、かな。

バリアンの力がない状態でのデュエルで敗北すれば、

アリトと同じように、ミザエルも死んでしまう・・・。



真ドン・サウザンドは、神々しく、長髪の人間のような姿になってます。

声までも変わって。

アストラルの記憶の中で、かつて対決したドン・サウザンドは、この姿ではなかった気がします。

本当の姿というより、七皇の力を得て進化した姿、なのかもしれません。



先攻のドン・サウザンドは、ドローしただけで、何もせずにターンを終了する。

ミザエルはマジックを使い、このターンのバトルを放棄する事で、二体のモンスターを揃え、

ギャラクシーステルスドラゴンをエクシーズ召喚。

さらに、ステルスドラゴンの効果で、手札のドラゴン族モンスター二体を特殊召喚

三体のモンスターを揃えたミザエルは、このターン、攻撃出来ないはずだが。



マジック、竜皇の崩御を使い、三体のモンスターをリリースする事で、効果ダメージを狙っていた。

そのダメージはミザエルとドン・サウザンド双方に及ぶ。

ミザエルはドン・サウザンドと刺し違える気なのだ。



ミザエルが手札から特殊召喚したのは、レベル8のドラゴン族。

いつもならここでランク8の時空竜を召喚する所です。

エースモンスターがいないデュエルは、見ていて少し寂しい。

時空竜を召喚してデュエルしている時のミザエルが、一番輝いてるように思えます。



大好きだった時空竜は、今はデッキにはありませんが。

それでもやはり、自他共に認める、最強のドラゴン使い。



 「ドン・サウザンド、みるがいい。

  これが、ドラゴン使いの最後の切り札!」



 「私の命と引き替えに、ドラゴン達の絆が

  お前を地獄へ送り返す!」



ドラゴンへの拘りは相変わらずです。

      

だが、効果ダメージは発動せず。

ドン・サウザンドに促され確認すると、発動したカードか変わっている!?

ミザエルの場にあるマジックは、お互い効果ダメージを受ける「竜皇の崩御」ではなく、

ミザエルだけが効果ダメージを受ける「竜皇の宝札」。

なぜ発動したはずのカードが変わってしまったのか、その理由を知る間もなく、

ミザエルは効果ダメージを受け、敗北してしまう・・・。



倒れたミザエルの元に駆け寄る遊馬が、なぜあんな無茶を!?と問い、ミザエルは答える。



 私も信じてみたくなったのだ。

 カイトやお前達が信じた、人を信じる力を。



 ナッシュ、遊馬、アストラル・・・。

 後は、頼んだぞ・・・。



最期のミザエルの表情が、穏やかに微笑んでいます。



あれほど執着していた時空竜のカードは、もはや無くなり。

それでもここまで立派に戦えたのは、カイトが教えてくれた、

人を信じる力のお陰なのでしょう。

時空竜への強い執着心は、人間不信の現れだった。

今のミザエルは、時空竜への執着から解放されたように思えます。



その台詞からもうかがえるように、

執着は消えても、ドラゴンとの絆を今もしっかり信じている所も、ミザエルらしい。



ミザエルの無謀な自己犠牲。

主人公達に未来を託す為、敗北すると分かっていながら、あえてデュエルする。



5D'sのクライマックスで、ZONEに挑んだアポリアを思い出させました。

今、自分がやるべき事は、自分を犠牲にしてでも敵の手の内を明かす事。

かつて敵対した者達を勝利へと導く為に。

その壮絶な覚悟が、切ない・・・。



ミザエルの魂も、ドン・サウザンドに吸収されてしまう。

残る七皇の一人、ナッシュの魂をも奪おうとするドン・サウザンド。

ドン・サウザンドの中には、既に何十億というバリアンの魂がある。

七皇の仲間達の魂も、その中に。

さらに、アストラルと遊馬の魂も手に入れようとしていた。

全ての魂を手に入れた時、ドン・サウザンドは真の神となると言う。



遊馬達とまとめてデュエルすると言うドン・サウザンドに対し、

アストラルが遊馬とナッシュに語りかける。



 ミザエルは・・・・。

 彼は、我々に命を賭けて伝えてくれた。

 人を信じ、敵、味方の垣根を越えて、

 今こそ強大な敵に立ち向かう時だと。



 シャーク、そして遊馬。

 共に戦おう!



遊馬とナッシュがこれに答える。



 遊馬「シャーク、一緒にいくぜ!」



 シャーク「仲間の仇、討たせてもらうぜ!」



ドン・サウザンドがいよいよラスボスとして立ちはだかり、

ここで遊馬とナッシュが共闘する事になるとは、予想していませんでした。

遊馬をもはや仲間ではないと言い切ったあのナッシュが、仲間達の死を前にして、いよいよ覚悟を決める。



このシーン、遊馬とアストラルは、ナッシュの事を「シャーク」と、

かつての呼び名で呼んでいるのも印象的です。

姿が変わっても、人間ではなくなっても、一度は敵宣言した仲だったとしても。

人間であったときの絆に呼びかけている。

シャークと呼ばれたナッシュも、その名を否定していません。

まだナッシュの中に、遊馬達との絆が生きていると感じさせます。



ドン・サウザンドと、遊馬、シャーク、アストラルのデュエルが始まる。

ドン・サウザンドはまたも、先攻ターンで何もせず。

遊馬はホープをエクシーズ召喚するが、

その直後に、ホープがガンバラナイトに変わってしまう。



ドン・サウザンドは、デッキからカウンタートラップ、

ヌメロン・リライティング・エクシーズを発動させていた。

相手のエクシーズ召喚を無効にして破壊し、

さらに相手のデッキから効果を無効にしてモンスターを特殊召喚するという、



まるで、事実を書き換えるかのような、その効果。

ドン・サウザンドは、ヌメロン・コードの力を手にしていた。



既にフィールド魔法、ヌメロン・ネットワークが発動している、この世界では、

フィールドにカードがない時、デッキからヌメロンの力を得たカードを発動できる。



ミザエルとのデュエルでも、その効果を使い、

魔法カードを書き換えるカウンタートラップ、

ヌメロン・リライティング・マジックを発動させていたのだ。



ナンバーズはまだ誰も揃えておらず。

地上世界のどこかに隠されているヌメロン・コードの所在は分からないはずなのに、

なぜドン・サウザンドがヌメロン・コードの力を?



アストラルの推測通り、ドン・サウザンドは、地上世界をバリアン化し、

この世界ごとヌメロン・コードの取り込んだのだ。



112話で、二つの世界を融合すると言った時、ドン・サウザンドはベクター

「人間世界の悪を増幅し、バリアン世界と同一化する事で、我が力は飛躍的に増大する」

と説明していましたが。

人間世界とバリアン世界の融合などという、わざわざ面倒な方法をとったのは、

ヌメロン・コードの力を手に入れる為だったのか。

アストラルが消滅し、遊馬からナンバーズを奪う絶好の機会なのに、それをしないのが謎でしたが、

これで納得がいきました。



さらに、このデュエルで受ける遊馬とシャークのダメージは、

そのままアストラル世界にも降り注ぐという。

このデュエルに、遊馬達とアストラル世界の運命がかかっている。

ドン・サウザンドの恐るべきヌメロンデッキに、遊馬達はどう立ち向かうのか?



ドン・サウザンドはヌメロン・コードの力を手に入れていますが、

ヌメロン・コードを発動させる為の鍵、ヌメロン・ドラゴンは、遊馬の手にあります。

ヌメロン・コードの本当の力とは、相手のカードを自在に書き換えるだけではなく、

世界をも書き換える力、なのかな。

ドン・サウザンドがヌメロン・ドラゴンを手に入れたとしたら、どう世界を書き換えるつもりなのか?



今回は、ベクターとミザエルの追悼EDでした。

もうこれ以上、誰も死なないで欲しい・・・。



ミザエルの髪やまつげが艶やかで、美しい。

カードを持つ指先の表情。



作監:豊田暁子)

(脚本:広田光毅・吉田伸)